スーツを着こなすミュージシャン
——後のパンク・ロックやヒップホップもファッションと一体ではありますが、服として純粋におしゃれなものを着ていたかというと、また違いますよね。
高橋
違いますね。いまだにパンク系のバンドの子達が、ロボットに代表されるような厚底のロンドンシューズを履いているのを見ると、ロック・ファッションの王道としてちゃんと残っていて、すごいなとは思いますが、別にモードではないですからね。
——ただ漠然と「おしゃれ」というのではなく、それがモードなのか、ハイ・ファッションなのかと考えると、ずいぶんと話が違ってくるわけですね 。

1981年、鈴木慶一とのユニット、THE BEATNIKSを結成。
PHOTO/伊島薫

高橋
イギリス人だったらちゃんと仕立てた背広とかね。ミュージシャンでも、チャーリー・ワッツみたいに普段はスーツを着ていて、ステージに上がるとTシャツ1枚になるみたいな人もいるわけです。また、そのTシャツがかわいいんですよ。オレンジ色で、相当洗い込んであって。2015年のツアーの時に彼が着ていたものを、ロンドンにいる女の子が調べてくれて、同じものをプレゼントしてくれたんです。サンスペルという、下着で有名なブランドのものでした。でも、やっぱりステージ終わると、ちゃんとスーツに着替えるというね(笑)。
僕は若い頃、ハイ・ファッションのブランド物はあまり好きじゃなかった時期もあったんです。最新のモードを追いかけるより、古着を探したりすることのほうが楽しかった。といいながらトノバンと一緒にファッション誌、例えば『ブリティッシュ・ヴォーグ』のページを捲りながら「このサンローランの靴、欲しいよね」なんて話していたんですけれどね(笑)。

1981年、鈴木慶一とのユニット、THE BEATNIKSを結成。 PHOTO/伊島薫

——メンバー全員がおしゃれだな、イメージが揃っているなと感じたバンドはいたのでしょうか。
高橋
チャーリー・ワッツは他のメンバーの格好を「あの趣味の悪い服をなんとかしてくれ」といっていたらしいですが、ローリング・ストーンズの60年代のファッションを見ると、そんなに悪くないんですよ。ミック・ジャガーの格好はすごくシンプルでかわいくて、後のジル・サンダーの服みたいでした。だからステージでは変わったセンスの服を着ていたとしても、要所要所ではうまいことスタンダードな感じのファッションも引っ張ってきているんだなと思いますね。そういう意味では、ビートルズはきちんと揃っていましたよね。モードではないけども、4人揃ったスーツの感じが戦略として成り立っていたというか。バンドのユニフォーム姿がカッコよく思えた時代でもありましたし。途中からみんなバラバラの格好をし始めても、普段の服が上品でおしゃれでしたし。
トム・ブラウンも、ショーでは奇抜な服をたくさん出すんですが、結局メインになっているのはいつもグレーのスーツじゃないですか。映画の『断崖』(1941年)をモチーフにしているとインタビューでは答えていますが、僕から見ると『エイプリル・フールズ』(邦題『幸せはパリで』69年)の時のジャック・レモンのスーツに近いんですよね。特に変わったところのない、日常的に着るようなスーツで、ちょっとツンツルテンなんです(笑)。トム・ブラウンには「毎日同じ格好をする勇気」という言葉があって、そういう感じは僕も好きですね。
『サラヴァ!』 を歌い直した理由
——スタンダード、フォーマルといえば、ファースト・ソロ・アルバム『サラヴァ!』のジャケットで、幸宏さんはタキシード姿でした。ロック・ミュージシャンがフォーマルな格好をするのは、それまでブライアン・フェリー以外はあまり例がありませんでした。
高橋
写真を撮ったのは鋤田(正義)さんですが、最初は鋤田さんが「エッフェル塔の前でローラースケート履いて、タキシードで撮ろう」といっていたんです。でも、寒くて断念したんですよ(笑)。
——このアルバムはヴォーカルを新録して、新たに『Saravah Saravah!』のタイトルでリリースされることになりました。
高橋
『サラヴァ!』は、とにかく歌入れをやり直したいとずっと思っていたんです。音程が悪いし、イタリア語の発音も悪いし……アクセントの間違っている箇所があることも自分で分かっていたし。だいたいコーラスに(山下)達郎や(吉田)美奈子が入っているのに、リード・ヴォーカルがこれじゃマズいだろうと(笑)。歌のリズムもノリも含めて全部。まだ自分の歌い方が確立できてない頃の作品だから、今の解釈でちゃんと歌いたかったんですよ。
そんなことを考えていたら、当時のマルチ・トラックがいい状態で残っていることが判明して、僕も驚いたんです。ヴォーカルを録り直してみたら、今の声のほうが若く聴こえるんですよ。当時は大人っぽく歌おうと思って、自分なりに解釈していたつもりなんですけど、分かっていなかったんですね。それととにかく演奏がみんなうまくて、うまくて。当時自分達ができる演奏をすべて出し切っちゃっているくらいじゃないですか。教授(坂本龍一)のアレンジも素晴らしいし。細野さんなんか、チャック・レイニーよりうまいんじゃないかと思います(笑)。

高橋幸宏を聴く。

高橋 ユキヒロ 『Saravah Saravah !』

1978年にリリースした名盤の誉れ高いソロ・デビュー・アルバム『サラヴァ!』のマルチ・トラックが発見されたことを機に40年の時を超えて生まれ変わった最新盤。坂本龍一によるアレンジ、加藤和彦、高中正義、細野晴臣、山下達郎、吉田美奈子などの豪華プレイヤー陣の演奏はそのままに、ヴォーカルトラックのみを新録音。マスタリングを砂原良徳、ジャケット・デザインをテイ・トウワが手がけている。表題曲「サラヴァ!」などのオリジナルと「ボラーレ」「セ・シ・ボン」「ムード・インディゴ」などのカヴァー曲が渾然一体となって、当時26歳だったとは思えない洒脱な世界を展開。オリジナル『サラヴァ!』のリリース時点では、すでにYMOも始動。自在かつスタイリッシュに展開する高橋幸宏ワールドの原点を感じさせてくれる一枚となっている。(日本コロムビア/ CD:3,240円 LP:4,104円)

YELLOW MAGIC ORCHESTRA 『NEUE TANZ』

YMOの結成40周年を記念して、「今響かせたいYMO」をテーマにテイ・トウワが16曲を選曲・監修したアニヴァーサリー・コンピレーション。こちらもリマスタリングを砂原良徳が担当。YMO40周年企画としては、アルファレコード期の全オリジナル・アルバムを名匠ボブ・ラディックによるリマスタリングで順次再発中。(ソニー・ミュージックダイレクト/ CD:2,592円 LP:5,940円)

THE BEATNIKS 『EXITENTIALIST A XIE XIE』

鈴木慶一とのユニットとして1981年の結成以来、断続的に活動を続けているザ・ビートニクスの最新アルバム。「怒り」をテーマとしたメッセージ性の高いナンバーやユーモア溢れるナンバーを織り交ぜ、この2人にしか構築できない「大人のロック」を聴かせる。ゲストにゴンドウトモヒコ、小山田圭吾、佐橋佳幸などが参加。(日本コロムビア/ CD:3,240円 LP:4,104円)

METAFIVE 『META』

高橋幸宏、小山田圭吾、砂原良徳、テイ・トウワ、ゴンドウトモヒコ、LEO 今井が結成したバンド・METAFIVE が2016年にリリースしたデビュー・アルバム。同年に映像作品『METALIVE』と5曲入りアルバム『METAHALF』を立て続けに発表。YMOを体験してきた世代と共に21世紀のエレクトロ・ポップを開発。(ワーナー・ミュージック・ジャパン 3,024円)

サディスティック ・ミカ・バンド 『黒船』

高橋幸宏が本格デビューを果たした加藤和彦率いるサディスティック・ミカ・バンドの1974年の名盤。2018年9月に生産限定の「ハイレゾCD 名盤シリーズ」(MQACD/ UHQCD)としてリイシュー。オリジナル・アナログ・テープをもとに最新DSDマスターを352.8kHz / 24bitに変換して収録している。(ソニー・ミュージックダイレクト/ CD2枚組 3,086円)