アメリカの匂いがあった街〜御徒町、アメ横
―音楽以外のお話もお伺いしたいのですが、当時、大田区から遊びに出るとしたら、どこの街でしたか。
遊びに行くのは渋谷だったね。高校生の頃、道玄坂にヤマハができたんですよ。それ(1966年)以降は、渋谷に入り浸っていました。渋谷の前は御徒町。僕はなんというか、ちょっとヘンなやつだったんですよ(笑)。文房具が好きだったんでね、御徒町によく見に行っていました。
―これまでご登場いただいたミュージシャンの方々とは、また違う角度のマニアックな話が出てきました(笑)。
パーカーとか、シェーファーとか、万年筆を見て回るだけなんだけど、しょっちゅう1人で行っていましたよ。パーカーのグレーの万年筆があるんだけれど、日本の商品には使われることのないグレーなんです。全然、違う発色だったから、珍しくてね。それと外国物のキャンディやコールハーンの靴なんか、色々なものが御徒町や上野のアメ横にはありましたからね。『ギャラント・メン』や『コンバット』といった、アメリカの戦争物のドラマも好きだったので、アメ横にはよく足が向いたな。
―米軍の放出品みたいなものを探しに。
そう、そう(笑)。カブスカウト、ボーイスカウトにも入っていたから、キャンプ用品も友達と探しに。米軍の払い下げのものを見つけて「この水筒だったら、下げて歩いていてもラクだね」なんて。でも、アメ横は戦後のドサクサでできたような通りだから、当時はいかがわしい雰囲気もあってね。僕がシャーペンとかを見ていると、紙袋から何か出している男と店の人の会話が裏のほうから聞こえてくるわけですよ。「お兄ちゃん、それはダメだよ」って。紙袋に何が入っているかという、本物の拳銃なの。アブナイ場所だなあって(笑)。
―アーミー関連だけではなく、アメリカのテレビドラマ全般に影響を受けましたか。
それはみんな当時、影響を受けていますよ、間違いなく。『コンバット』から『パパは何でも知っている』『うちのママは世界一』『名犬ロンドン物語』『名犬ラッシー』……全部観ていました。去年、DA PUMPの「USA」という曲が流行りましたが、あの歌詞は完全に僕ら世代を意識していますよね。アメリカ文化に洗脳されて育った。
ジャズ・ギタリストを目指して
―音楽のお話に戻ると、大学入学以降は、ロックというよりも……。
ハリー・ベラフォンテのアルバム『カリプソ』や、ナット・キング・コールの『ラテンを歌う』の雰囲気、匂いが好きだったんだよね。周りでも『ゲッツ/ジルベルト』を持っている人が結構いたり、だんだんボサノバに入っていきましたね。ジャズ・シンガーでありながら、ボサノバ大好きな女の子がいたので、彼女のバックで演奏したりとか。
―ジャズも聴き続けていたわけですよね。
大学に入学して最初の頃は、ロックは一切聴かないと思ったりもしました。「これからはジャズ!」って。毎日、道玄坂のジャズ喫茶を何軒もハシゴしました。なにしろたくさん聴かなきゃと思い込んでいたんです。そういう時代だったんでしょうね。夏休みに、夜の10時半から朝の6時まで、新宿のヴィレッジ・ヴァンガード(ジャズ喫茶)でバイトもしていました。エリック・ドルフィーとかも聴いていましたが、当時は前衛音楽全盛だったでしょう。ジャズ喫茶だと夜中の3時くらいになると、オーネット・コールマンやセシール・テイラーが延々流れて、タラ~って脂汗が出てくるような感じだったからね(笑)。それと余談だけど、僕は新宿がどうも好きじゃなくてさ(笑)。バイトで通ってはいたのに。どちらかというと演劇やっている人のほうが多かったでしょう? 角を曲がると、いきなりこっちは坊主頭で、こっちは髪の毛長いやつが佇んでいたり、なんだかよく分からなかった(笑)。ハプニングなんて言葉もあったしね。友達の中では新宿が好きなやつが多かったな。渋谷はちょっとスカしている街だと思われていたのかもしれない。
―ジャズはバンドで演奏したりもしていたのでしょうか。
僕はジャズ・ギタリストになろうと思っていたんですよ。18、19歳の時、本当にギタリストになろうと思っていた。高柳昌行さんというジャズ・ギタリストに教えていただいていたこともあるんです。だからロックから離れて、どっぷりジャズだったんです。ジャズ・ギタリストのアルバムも、ケニー・バレルからジム・ホールまで、ほとんど聴いて……ただし、結論をいうと一番好きなのはビル・エヴァンスだった(笑)。ビル・エヴァンスはピアニストなのに。いまだに好きですよ、ビル・エヴァンス。車の中でよく聴いています。
―お話をお伺いしていると、ジャズを浴び続けていたような毎日だったんですね。
だから僕にはビートルズ以外、ロックの血はほとんど入っていないんですよね。だんだん好みが枝分かれしていって、キング・クリムゾンの『クリムゾン・キングの宮殿』やEL&Pの『タルカス』を聴いていた時期もありますけれど。