カッコいい人はみんな新宿にいた
——松本さんのそういった感覚は、当時の映画会社でいえばATG(日本アート・シアター・ギルド/61年設立)、劇団でいえば唐十郎さんの状況劇場(63年旗揚げ)、寺山修司さんの天井桟敷(67年旗揚げ)に近いですね。
松本
当時、カッコよかったのは状況劇場の人達なんですよ。唐十郎や四谷シモン。佐野史郎の大先輩だよね。紅テント(状況劇場が花園神社に設置した仮設劇場)では、唐十郎が破天荒な感じで登場して、その上を着物で女装した四谷シモンが宙乗りで飛び越える。彼らが新宿の凮月堂にいて、コーヒーを飲みながら話しているのを、高校生の頃に近くのテーブルから憧れの目で見ていました(笑)。
紅テントも(佐藤信の)黒テントも、とにかくカッコいい人はみんな新宿にいたんです。新宿というと花園神社の真横にエイプリル・フールがハコで出演していたパニックがあって、そこから少し新宿寄りに寺山修司の天井桟敷があった。寺山さんとは交流がなかったけれど、ちょっと憧れはあった。それとATGの上映館(アート・シアター新宿文化)も当時新宿にあって、そこで(アラン・)ロブ=グリエの映画とかを観まくっていました。
——確かに60年代のサブカルチャー、というかアングラ文化の中心は圧倒的に新宿だったわけですよね。松本さんはNHKで新宿をテーマにしたドキュメンタリー番組(『風吹く街~新宿 松本隆』)に出演されたことはありますが、本来は出身地の青山、あるいはヤマハやマックスロード(喫茶店)の渋谷のイメージが強いですよね。
松本
バンドを始めて以降は、意外と渋谷との関係は薄いのかもしれない(笑)。でも、劇団の中で一番関係が近かったのは、渋谷に小さな劇場を持っていた東京キッドブラザースでした。そこに遊びにいって友達になったのが、ガロのボーカル(大野真澄)や亡くなった俳優の深水(三章)。それと渋谷といえば、石浦たちがつくったB.Y.G(ロック喫茶/ライヴハウス)ですね。
——こうして改めて小・中・高時代に触れてきた文化のお話を伺うと、誰かからの強い影響を受けて知ったものというより、松本さん自身が街に出て、観て、聴いて、読んだものばかりなんですね。
松本
全部ランダムに触れてきただけなんだけど、ランダムなものがだんだん自分の中で系譜ができてくる感じ。誰かに影響されたわけでは一切ないんです。兄も姉も先生も先輩もいない。全部自分で学んだことで、僕の感性は構築されてきたと思う。共通しているのは、僕はずっとサブカルで育ってきたということ。作詞家になった時だけ、メジャー側にひっくり返ったんです。まあ、それも自分でひっくり返したんだけどね(笑)。

松本隆を聴く。
作詞家として、ドラマーとして、「歌」育み続けた足跡を追う。

THE APRYL FOOL
APRYL FOOL』(1969年・日本コロムビア)

小坂忠、菊池英二、柳田ヒロ、細野晴臣、松本隆によるエイプリル・フールのデビュー盤にして唯一のアルバム。1969年リリース。(現行盤=日本コロムビア)

はっぴいえんど
はっぴいえんど』(1970年・URC)
風街ろまん』(1970年・URC)
HAPPY END』(1973年・ベルウッド)

1969年〜1972年という短い活動期間だったはっぴいえんどが残した3枚のスタジオ・アルバム。「風をあつめて」「はいからはくち」をはじめ、現在のシーンにも大きな影響を与えた松本隆ワールドの原点。(『はっぴいえんど』『風街ろまん』現行盤共にポニーキャニオン 『HAPPY END』現行盤=キングレコード)

『シングルス』(1974年・ベルウッド)
CITY / HAPPY END BEST ALBUM』(1973年・ベルウッド)

2017年にベルウッド・レコード45周年を記念して、最新デジタル・リマスタリング、新規ライナーノーツ付きで再発されたはっぴいえんどのシングル集とベスト・アルバム。(現行盤共にキングレコード)

南佳孝
摩天楼のヒロイン』(1973年・SHOW BOAT/トリオ)

1973年にリリースされた南佳孝のデビュー盤。松本隆がプロデュース、11曲中10曲を作詞。矢野誠と共に編曲も手がけている。細野晴臣、鈴木茂、林立夫、小原礼が参加。(現行盤=SHOWBOAT)

『風街図鑑 風編』『風街図鑑 街編』『新・風街図鑑』

「赤いスイートピー」「ルビーの指環」など、松本隆の作詞家としての業績を編んだコンピレーション。『風街図鑑 風編/街編』は2000年に各3枚組でリリース。『新・風街図鑑』は2009年に2枚組でリリースされた。(すべてソニー・ミュージックダイレクト)

風街であひませう』(2015年・ビクターエンタテインメント)

作詞活動45周年を記念したトリビュート・アルバム。草野マサムネ、斉藤和義、YUKI、ハナレグミ、中納良恵、細野晴臣などが参加。

クミコ
デラシネ deracine』(2017年・日本コロムビア)

松本隆が作詞、冨田恵一がプロデュースを担当した「クミコ with 風街レビュー」プロジェクトの集大成。七尾旅人、秦基博、つんく♂、横山剣、菊地成孔、亀田誠治などが作曲で参加。

『小説 微熱少年』
『エッセイ集 微熱少年』

共に文庫本化された松本隆による著作。レコーディングにまつわるエピソードなどを収めた「エッセイ集」のオリジナルは1975年発行。60年代の青春を描いた「小説」は、初の長編小説として1985年に発行された。(立東舎文庫・リットーミュージック)

松本隆対談集『風待茶房 1971-2004』『風待茶房 2005-2015』

幻となっていた『KAZEMACH CAFE』のリマスター版と最新の対談を収めた単行本。谷川俊太郎、林静一、細野晴臣、大滝詠一、筒美京平、高田渡、松任谷由実、町田康、是枝裕和、松本大洋、堤幸彦、鈴木茂など多彩なメンバーが登場。(立東舎・リットーミュージック)