「若さ」という「無限の可能性」

1977 年、坂本龍一氏が編曲を担当したソロ・アルバム『SUNSHOWER』の
レコーディング記念撮影(前列左から清水靖晃、松木恒秀。後列左から坂本龍一、
今井裕、後藤次利、クリス・パーカー、大貫妙子、生田朗、斎藤ノブ、大村憲司)

——10代の頃に聴いていたミュージシャンで、こういう存在に自分はなりたいと憧れた人はいましたか。
大貫
ジョニ・ミッチェルですね。シュガー・ベイブを解散して、ジョニ・ミッチェルの『ブルー』をもう1回ちゃんと聴いて、改めてものすごく独創的な人だと思いました。例えばキャロル・キングの音楽はいいなと思っても、そんなに驚くようなことはないけれど、ジョニ・ミッチェルには独特な世界があって、アルバムが出る度に新しいことをやっている。その後もずっと聴き続けてきて、彼女から学んだことはたくさんありますね。いつも素晴らしいミュージシャンと組んでいますが、彼女はミュージシャン達から特別な存在だと思われていたのかもしれません。その頃はもうジャニスが目標ではありませんでした。

1977 年、坂本龍一氏が編曲を担当したソロ・アルバム『SUNSHOWER』のレコーディング・メンバー(前列左から清水靖晃、松木恒秀。後列左から坂本龍一、後藤次利、クリス・パーカー、大貫妙子、生田朗、斎藤ノブ、大村憲司)

『SUNSHOWER』のレコーディングのためにNYから「Staff」のクリス・パーカーが来日。

『SUNSHOWER』のレコーディングのためにNYから「Staff」のクリス・パーカーが来日。

——確かにジョニ・ミッチェルは、ジャニスのようにロックやブルースを歌うのに向いている声ではないですが、ミュージシャンとしての存在はロックですよね。最初に曲を書いたのはいつのタイミングだったのでしょうか。
大貫
はっきりと1曲を完成させたのはシュガー・ベイブからです。詞みたいなものはたくさん書いていましたけど、全然採用されず。それ以前に組んでいたのは、フォーク・グルーブ(三輪車)だったこともあって、他のメンバーからは「この詞は難しいね」と言われていました。
——曲を書きたいという意識はずっとあったんですよね。
大貫
あまりなかったですね。というか自分が音楽で食べていけるなんて、100%思っていなかったですから。シュガー・ベイブの時でさえ。今でも山下(達郎)くんと会うと、「僕たち、こんなに長くやると思わなかったよな」「ホントだね」って話になるの。会う度に、しみじみそういう話をしている(笑)。
当時はアルバイトもしていましたし。毎日ケチャップだけのスパゲティ・ナポリタンでも、まったく平気でした。アルバイトのお金が入って、ナポリタンにウインナー入れられれば幸せみたいな(笑)。何も考えていない。音楽をする場があればひたすら楽しく、食べられなくてもいいやって。それが若さの特権であり、お金が入って、悩んで悩んでLPを1枚手に入れて聴き倒す喜びの方が、食にこだわるよりはるかに幸せでしたから。
——シュガー・ベイブの時、大貫さんは21歳ですよね。
大貫
そう。本当に初々しい時代でした。振り返ると懐かしくて涙が出そうです。若いというのは誰もが無限の可能性を持っている、宝の玉手箱ですね。流されず頑張ってもらいたいと心から応援しています。夢中になることがあれば是非それを捨てないでほしい。本当に好きなことなら、世の中が今それを認めなくても、必ず続けていけると思います。何故なら、そのことは自分を幸せにしてくれるから。

大貫妙子を聴く。

RCAでの代表作が一気にアナログ化。
この春からRVC時代の代表作が一気にアナログ化。すべてオリジナル・マスターテープから96KHz/24bitにデジタル変換したハイスペック音源データをもとに、世界的名匠バーニー・グランドマンがリマスタリングとカッティングを担当した完全生産限定盤。大貫妙子による最新セルフ・ライナーや当時のライナー、マルチテープに同梱された現存のトラックシートなどが掲載されている。現在、『ミニヨン』と7/25発売の『ロマンティーク』『アヴァンチュール』が登場。この秋以降に『クリシェ』『シニフィエ』『カイエ』もアナログ化が予定されている。

MIGNONNE

この春、リマスター・アナログ盤がリリースされた1978年の3rdアルバム。編曲を坂本龍一と瀬尾一三が担当し、細野晴臣、高橋幸宏、鈴木茂ほか、豪華メンバーが参加。「横顔」「突然の贈りもの」など、名曲を数多く収録。(ソニー・ミュージックダイレクト/アナログ 3,996円)

ROMANTIQUE

1980年、ヨーロピアン・サウンドをコンセプトに制作された「ヨーロッパ3部作」の第1弾。アレンジャーに坂本龍一、加藤和彦、清水信之。YMOの三人がバックアップし、大村憲司、松武秀樹も参加。アナログ盤が7/25リリース。(ソニー・ミュージックダイレクト/アナログ 3,996円

AVENTURE

「ヨーロッパ3部作」第2弾として1981年にリリース。編曲は坂本龍一、前田憲男、加藤和彦、大村憲司、清水信之。コーラス・アレンジでは山下達郎も参加。エキゾティックな前作に比べ、より明るくポップに仕上げられた。(ソニー・ミュージックダイレクト/アナログ 3,996円)

『TAEKO ONUKI symphonic concert 2016』

デビュー40 周年プロジェクトとして2017年にリリースされたライヴDVD & CD。編曲・指揮を千住明が担当し、東京芸術劇場で開催された初のシンフォニック・コンサート(編曲・指揮は千住明)を収録。(ポニーキャニオン/ DVD+CD 6,480円)

『GOLDEN☆BEST 大貫妙子 ~ The BEST 80’s Director’s Edition ~』

1978年の『MIGNONNE』から1990年の『NEW MOON』までの作品を中心にセレクトした2枚組ベスト盤。これまでデジタル・リマスタリングされていなかったナンバーも最新のデジタル技術でリマスタリング。(ソニー・ミュージックダイレクト/CD2枚組 3,086円)